トラスト設定後日本へ帰国するとどうなる?

グリーンカード保持者の夫婦が、米国で生前信託(Revocable Living Trust)を設定した後に、一緒に日本へ帰国することを決めた場合、信託はどうなるのでしょう。

 結論から言えば、いくつかの選択肢があります。

 お二人の共同信託は米国の州法に基づいて作成されたものであるため、日本へ移住した後も法的効力は維持され、引き続き米国の資産を保有することができます。しかし、ご夫婦が日本へ移住し、永住権を放棄した場合には、信託の管理体制によっては米国税法上「外国信託(Foreign Trust)」として扱われる可能性があります。外国信託に該当した場合にはIRSへの追加的な報告義務が発生することがあるため、事前に国際税務に詳しい専門家へ相談することが重要です。また、米国非居住者になれば米国資産に対して高額な米国相続税が課されることも注意してください。

選択肢1:出国前に米国の信託銀行(法人受託者)を任命する

帰国後も信託を維持し、米国の資産を持ち続けたい場合、最もシンプルな解決策は、出国前に米国の銀行の信託部門やプロの信託業者を「共同受託者(Co-trustee)」または「後継受託者(Successor trustee)」に任命することです。適格な米国受託者を関与させることにより、信託が米国国内信託として取り扱われる可能性が高まる場合があります。なお、法人受託者を利用する場合は管理費用が発生する点もご留意ください。

選択肢2:出国前に信託を解約(清算)する

米国の不動産を売却し、米国の口座を解約して、すべての資産を日本に統合する計画であれば、、出国前に信託を閉じて身軽になることが最も簡単な方法です。これにより、将来的な米国の信託報告義務や源泉徴収の問題を完全に回避し、米国資産と完全に決別することができます。 ただし、含み益のある資産を売却する場合は多額のキャピタルゲイン税が発生する可能性があるため、資産の現金化のタイミングについては米国の税理士と綿密に計画を立てる必要があります。

選択肢3:信託を閉じて資産をそのまま保持する

日本へ帰国した後に米国内の資産を売却せずに個人名義で保持しておきたい場合、信託を閉じて金融資産の口座名義をTOD(Transfer on Death:死亡時譲渡)やPOD(Pay on Death:死亡時支払)に書き換えるという選択肢もあります。TODやPODの指定が利用できる資産については、多くの場合、プロベートを経ることなく指定受取人へ資産を移転することができます。ただし、米国非居住者(日本在住)になった後では、金融機関側が口座の維持やTODの設定を拒否・制限するケースが多発しています。そのため、必ず日本へ帰国する前に手続きを済ませておく必要があります。

不動産の場合は、夫婦共有財産(Community Property with Right of Survivorship)として保有している不動産は、最初の配偶者の死亡時には通常プロベートを回避して生存配偶者へ承継されます。ただし、最終的な相続対策としてはTODの利用を検討する余地があります。しかし不動産の権利変更手続きには時間的制約があるため、これも出国前に済ませておくのが賢明です。

選択肢4:外国信託としてそのまま維持する(適切な税務報告を行う)

 上記のいずれの選択肢も状況に合わない場合(例えば、簡単に売却できない資産がある、あるいはまだ方針が決まっていないなど)、米国の税法を遵守することを前提に、外国信託のまま保有し続けることも可能です。しかし毎年複雑な税務申告をする必要があるため、国際税務に精通した米国の会計士のサポートが必須です。

最大の盲点:米国資産を維持する場合の米国相続税

永住権を放棄して非居住外国人となった場合、米国内に保持する資産には、信託の中に入っているか個人名義であるかを問わず、米国相続税のリスクが発生します。米国非居住者に対する米国相続税の基礎控除額は、米国市民・居住者に比べて大幅に低く設定されています。信託を閉じれば税負担から逃れられるわけではないため、米国資産を持ち続けること自体に高額な税務リスクが伴うことを念頭に置いておくべきです。

また、米国から日本への移住に伴い、日米両国の相続税、また一定の要件に該当する場合には米国の出国税(Exit Tax)が問題となることがあります。移住を予定する少なくとも2~3年前には、米国CPAや日本の税務専門家への相談を始めてください。

免責事項:本記事は一般的な参考資料として個人的に集めた情報を纏めたものであり、法律・税務に関する専門的アドバイスではありません。税務に関する具体的な質問は、日米の税務専門家にお問い合わせください。